トワイライトEXPのスイートに乗る-9
函館本線に入ってからの残り4時間は、もっとゆっくりという願いも空しくあっという間に過ぎてゆく。

森を過ぎ、車窓が内浦湾沿いの景色に移ってまもなく、朝食の営業が開始される。

予約していた第1回目の案内放送に合わせて3号車へ向かうと、今朝はスタッフに名前で座席に案内された。少人数をターゲットにしたきめ細やかなサービスだ。30分で回転させるため、席に着くとまもなくテキパキと食事が運ばれてきた。

車窓を見ながらのんびりしている時間はあまりないが、朝の北海道の景色を見ながらの食事はまた格別。
そして残り時間はいよいよ2時間半。部屋でまったりできる最後のひとときを迎える。

苫小牧を過ぎたあたりで食堂車から紅茶が運ばれてきた。朝のコーヒーサービスはモーニングコールとして朝食の30分前が基本になっているようだが、朝食の時間が早かったので、札幌到着前にタイミングをずらしてくれるよう取り計らってくれた。短い間ながらお世話になったスタッフとも、これが最後だろう。
そして、最後の停車駅である南千歳を出発。ここからは新千歳空港からの往き来で見慣れている区間。列車は白石、苗穂と過ぎ、いよいよ速度を落とし始めると、いい日旅立ちのメロディに乗せて旅の終わりが告げられた。
トワイライトエクスプレスの旅の終わり(車内放送)(wma形式)

ほどなく静かに札幌駅ホームに到着し、21時間49分に及ぶ展望スイートの旅は、名残惜しくも幕が下ろされた。

国内でこんな長時間も列車に揺られるのは久しぶりだった。乗る前は列車内での22時間という時間は結構退屈するんじゃないかと思っていた。実際、乗車前には暇つぶしに備えて読み物を携えていた。しかし、いざ乗ってみれば退屈などする暇などない。おまけに寝ている暇もない(^^;。そして、終わってみれば実にあっけない。
改めてこのスイートを評価するとどうか。正直なところ、部屋の調度品はすでに古ぼけているし、ベッドも一昔前の水準である。トイレ・洗面台・シャワーが一緒になったユニットも高級感とはかけ離れている。乗務員の接遇も列車としては頑張っていることは確かだが、他の接客業と比べればまだまだ洗練する余地は大いに残されていると思う。
これに対して、ホテルでいえば単なる「ツイン」が列車内では「スイート」になり、パークハイアットやペニンシュラの宿泊料金にさえ匹敵する価格設定がなされている。単純に「泊まるところ」として見れば、恐ろしく「ぼったくり」ということになる。ただ横になるだけの開放B寝台でさえ近年の小綺麗なビジネスホテルを越えた価格設定は、市場を見ていないとも言える。
しかし、どんな高級ホテルでも窓からの景色は動かない。列車の旅の醍醐味である地上の景色の移り変わりが全面に広がり、心ゆくまで楽しめるこの部屋に限って言えば、それだけの特別な価値を持っていると認識した。これは飛行機や船のどんな上級客室でもなしえないことでもある。特に最近、航空機での移動に頼り切っていた自分にとっても、陳腐な表現だが列車の旅の再発見という意味で、今回の旅行は新鮮な気持ちを呼び起こさせてくれたと思う。(でなければ9本に分けてまで記事は書かない。)素晴らしい時間が過ごせたことに感謝したい。
・・・でも、これでGWはいよいよどこへも行けなくなったぞ。
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